名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)13号 判決 1991年7月19日
原告
森孝行
被告
愛知県教育委員会
右争訟事務受任者
愛知県教育委員会教育長小金潔
右訴訟代理人弁護士
加藤睦雄
同
棚橋隆
同
立岡亘
右指定代理人
武内重雄
同
近藤裕治
同
松井繁興
同
藤沢宣勝
同
小林勝三
同
森扶瑳雄
同
太田敬久
同
本荘久晃
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が平成元年四月一日付けをもってした原告を一宮市立浅井南小学校教諭から一宮市立浅野小学校教諭に転任させる処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四一年四月一日付けをもって愛知県一宮市公立学校教員に採用され、現在一宮市立浅野小学校に勤務する教諭である。
2 被告は、平成元年四月一日、愛知県教職員の定期人事異動において、原告を一宮市立浅井南小学校教諭から一宮市立浅野小学校教諭へ転任させる処分(以下「本件処分」という。)をした。
3(一) 本件処分は、原告の正当な組合活動、教育実践及び教師態度に対する不当な差別・制裁処分であり、教育基本法六条二項、一〇条、地方公務員法一三条、五六条等に違反する不当な処分であったから、原告は、平成元年五月一日愛知県人事委員会に対し、本件処分の取消しを求めて不服申立てを行った。
(二) 同人事委員会は、原告の右不服申立てに対して、平成二年一二月四日付けで「愛知県教育委員会が、平成元年四月一日付けで申立人に行った転任処分は、これを承認する。」との判定を下した。
4(一) 右判定は、原告の主張事実を不当に抹殺する一方、被告の主張事実は正当な根拠もないのに一方的にこれを採用するなど、真実から遊離した不公正な判定であった。
また、右判定は、憲法一五条、地方公務員法九条二項、不利益処分についての不服申立てに関する規則(愛知県人事委員会規則九―一)八条、九条に違反する不公正な審査及び審査指揮によってなされたものであった。
(二) そこで、原告は、同人事委員会に対し、平成三年二月二七日付けで、右判定を不服として再審請求(以下「本件再審請求」という。)をした。
(三) 同人事委員会は、本件再審請求に対して、同年三月一二日付けで、「本件請求は、これを却下する」との決定を下した。
5 よって、原告は、本件処分の裁判による取消しを求める。
6 なお、行政事件訴訟法一四条の定める出訴期間は、憲法の定める主権在民、国民の不利益処分からの救済の精神からして、再審請求に対する人事委員会の右決定があった日から起算すべきものであるから、本件訴えは適法である。
二 被告の答弁及び本案前の主張
1 請求原因1の事実、同2の事実、同3(一)の事実のうち原告が平成元年五月一日愛知県人事委員会に対し本件処分の取消しを求める不服申立てを行ったこと、同3(二)の事実、同4(二)(三)の事実は認める。
2 愛知県人事委員会がした本件処分を承認する旨の判定の判定書謄本は平成二年一二月五日原告に送達された。
3 本件訴えは、右判定書謄本送達の日から三か月以上を経過した平成三年三月二八日に提起されたものであるから、行政事件訴訟法一四条一項の出訴期間を経過した後に提起された不適法な訴えとして却下されるべきものである。
たしかに、原告は請求原因4(二)のとおり本件再審請求をしているが、本件再審請求に対して愛知県人事委員会は、「再審請求者が再審の理由として主張する事由は、いずれも規則一四条第一項各号に規定する再審事由に該当しない」としてこれを却下しているのであり、このように再審請求自体が不適法であって、再審事由の存否についての実体判断がされることなく再審請求が却下された場合については、行政事件訴訟法一四条四項によって出訴期間が延長されることはない。
理由
一 請求原因1の事実、同2の事実、同3(一)の事実のうち原告が平成元年五月一日愛知県人事委員会に対し本件処分の取消しを求める不服申立てを行ったこと、同3(二)の事実、同4(二)(三)の事実は当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない(証拠略)によれば、愛知県人事委員会がした本件処分を承認する旨の判定の判定書謄本が原告に送達されたのは平成二年一二月五日であることが認められる。
本件訴えが当裁判所に提起されたのが、右送達の日から三か月を経過した後の平成三年三月二八日であることは、本件記録上明らかである。
三 ところで、行政事件訴訟法一四条四項は、処分又は裁決につき審査請求があった場合、取消訴訟の出訴期間は審査請求に対する裁決があったことを知った日からこれを起算する旨を規定しているところ、右にいう審査請求には地方公務員法八条七号に基づく愛知県人事委員会規則九―一「不利益処分についての不服申立てに関する規則」の定める再審の請求も含まれると解される。
しかしながら、行政事件訴訟法一四条四項によって出訴期間の延長が認められるのは、審査請求(本件についていえば本件再審請求)が適法なものである場合に限られるのであって、審査請求が不適法として却下された場合を含まないと解すべきである。
本件につきこの点をみるに、(証拠略)によれば、前記愛知県人事委員会規則一四条は、同人事委員会の判定に対し再審の請求をすることができる場合を、(一)判定の基礎となった証拠が虚偽のものであることが判明した場合、(二)事案の審査の際提出されなかった新たな且つ重大な証拠が発見された場合、(三)判定に影響を及ぼすような事実について判断の遺漏が認められた場合に限定し、かつ右再審の事由のいずれかに該当する事実を再審請求書において挙示することを再審請求の方式として要求していることが認められるところ、成立に争いのない(証拠略)の全趣旨によれば、本件再審請求は単に判定の基礎となった事実認定を争い又は審査手続の違法不当を主張してなされたものであったため、右再審事由のいずれかに該当する事実を挙示するという方式を欠いた不適法なものとして却下されたことが認められる。そして、本件再審請求を不適法なものとして却下した愛知県人事委員会の右判断に違法があったことを窺わせる資料はない。
したがって、本件処分の取消訴訟の出訴期間については、愛知県人事委員会のした判定との関係では行政事件訴訟法一四条四項が適用されるが、本件再審請求を却下した決定との関係では同条項の適用はなく、右取消訴訟すなわち本件訴えは、愛知県人事委員会がした本件処分を承認する旨の判定の判定書謄本が原告に送達された日から三か月以内に提起されるべきものである。
四 そうだとすれば、本件訴えは出訴期間を経過した後に提起されたものであることが明らかであり、不適法な訴えであるといわなければならない。
よって、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水信之 裁判官 遠山和光 裁判官 菱田泰信)